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休憩室は狭く、テーブルと椅子、あとは監視カメラの映像を映すテレビがあるだけだ。
来訪者が来たらすぐに行けるように監視カメラは付けられている。
そんな一人しか使わない休憩室で、私はお茶と賞味期限の切れた饅頭を食べていた。
饅頭は何だか少し酸っぱいような気がしたが、まぁ気のせいだろうという事にしておいた。
今日も様々な記憶がここに棄てられて来る。もしかしたらこの中に私の記憶も存在するのかもしれない。
突然だが、私には記憶がない。
自分の名前も生年月日も出身地も過去の想い出も夢も、何もかもが心から消えていた。気がついたらここにいて、何故か管理人をしていたのだ。
記憶の欠片を探そうともしたが、どうしても見つからず、どうしたらいいのか、わからなかった。
私は何者なのだろう?
幾度となくそんな事を考えたが、辿り着く先はいつも同じだった。
わからない
ただそれだけだ。
饅頭を全て平らげ、ぬるいお茶で、口の中にわずかに残った饅頭のカスを綺麗に流し込んだ。
監視カメラの映像を見ると、門に人影が見えた。どうやら誰かが来たみたいだ。
さて、仕事だ仕事
私は立上がり、饅頭の入っていた箱をゴミ箱に捨て、受付へ向かった。
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