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霞む視界で、近づいてくるシルヴィアを見つめる。
額から流れ出てきた生温かい液体が目に入り、世界を赤に変えていく。
巨大な光源が地平線に沈みかけると共に、空が暗くなっていった。
それでも鈍く光り続ける、シルヴィアの両刃の短剣。
「しょせんは、ガキだな」
ジャックの目の前まで来た憎むべき存在。唇の端を吊り上げて笑みを浮かべている。
そしてどこまでも人を見下すような――人を見下す事しか出来ない瞳。
冷たい、黒。どんなに鮮やかな色だとしても、瞬時に塗りつぶす最凶の色。
遠くなる意識を必死に繋ぎとめ、ジャックはその顔を脳に刻みつける。
シルヴィアが短剣を上空にかざす。
それは微かに赤い日差しを受け、怪しく輝く。
「俺を殺そうと思っていたようだが、それは無理だったようだな。子供が親に勝とうとする時点で間違っている」
シルヴィアが一歩踏み出す。
生い茂っている雑草を踏みつぶしながら。
「……くそ」
足は動く。手も、頭も働く。しかし、視界はほとんど失っている。
この状況で足掻いた所で、形勢逆転できるとは思えない。だからジャックは行動しなかった。
「……畜生」
それでも悔しい気持ちは変わらない。殺したい相手が、最も憎んでいる相手が目の前にいるのに。
なにも、出来ない。
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