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シルヴィアの剣が輝きを増す。
切っ先から毒々しい紫色の液体が飛び出す。それは地面に付着した後、一瞬にして草を腐らせた。
ほとんど機能を失っている視界。そこでジャックは確かに見た。
糞親父の後ろ。
赤い日差しを背景に、一人の男が立ち上がるのを。
片腕から血をシャワーのように噴出させながら、ふらふらとした足取りで立ち上がる隊長の姿を。
「……トム」
ジャックは思わず呟いた。
その声が聞こえてたかどうかは定かではない。
しかし、青年は笑っているように見える。
少年の今にも消えそうな呟きを聞き、シルヴィアは後ろに振り返った。
そこには血を流していながら、今にも倒れそうな人間が立っている。
しかし。目の光だけは衰えていない。なにがなんでも、生き延びてやる。そんな信念が垣間見える。
「ははっ」
シルヴィアの口から乾いた笑い声が漏れた。
その状態で立ち上がった青年が信じられない。微かに恐怖すら覚えている。
目標を変更。
動く気配を見せないジャックは後回し。
最優先すべきは死にかけの体で起き上がったあの男。
シルヴィアは地面を足で強く蹴り、一足跳びでトムの懐まで飛び込む。
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