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左肩から血を噴出させているトムの懐に潜り込んだシルヴィアは、剣を下から真上に突き上げる。
青年の顔を向かって放たれたそれは、しかし空を切る。
シルヴィアは多少驚く。
トムが避けたからだ。いや、避けたという表現は違う。
凶刃が迫って来た時、体から力が抜けて横に倒れそうになった。そのために偶然にも避けれたのだ。
しかし、シルヴィアを驚愕させたのはそれだけじゃない。
横に崩れかけたトムの体が、なにかに支えられたように元に戻って行く。
いや、確かになにかに支えられている。
地面から吹き出したように飛び出している、赤い棒状のなにかに。
トムは支えられた状態のまま、静かに笑う。
「特殊能力を使えるのがお前たち、ハーヴィス家だけだと思うなよ?」
瞬間。
上空に剣を突き出したままの体勢のシルヴィアに、至る所から赤く鋭い物体が高速で飛来する。
「――ッ!?」
彼が間一髪のところで後ろに跳んで避けると、さっきまでシルヴィアがいた場所に、何十もの尖った物体が交差し、鼓膜を突き破るような轟音を発しながら複雑に絡み合う。
シルヴィアの背筋を冷たい汗が伝う。
あれを避けられなかったら、今頃は体中に突き刺さっていた事だろう。
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