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「これが、俺の最後の抵抗だ。全て避けれるものなら、避けてみやがれ……」
トムは頭上に両手をかかげ、その内の一方を一気に振り下ろす。
球体の中心部から一筋の矢のように鋭い物が、尾を引いて飛び出した。
風切音を出しながら高速で飛んでくるそれを、シルヴィアは頭を軽く振るだけかわす。
後方で、ドスッ、と地面に突き刺さる音が聞こえてきた。
「これだけか?」
つまらなさそうに、呆れたように、見下すようにシルヴィアは笑う。
だが、瀕死状態である青年は、口の端を軽く吊り上げ、目を細めて、穏和な笑みを浮かべた。
「誰が、そんな事を言った?」
トムは先ほど振り下ろしたとは逆の手――左手を振り下ろす。
さっきが一本だった血の矢が、何十本と球体から飛び出し、宙に浮かぶ。
「これをしのぎ切れるかな?そろそろ、あれの効果も出てくるだろうし……」
トムの含みのある言い方を聞き、シルヴィアは首をかしげた。
あれの効果。
なんの事を言っているのだろうか。
目の前の敵は、そんな事を悠長に考えられる時間を与えてくれない。
二本の血が、鋭い切っ先をもって体を貫こうと接近してきた。
一本は剣で切り裂き、足を狙ってきたもう一本はジャンプする事で避ける。
だが、上空に跳んだ事が間違いだと、すぐに気付かされる。
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