休暇

50/54
前へ
/338ページ
次へ
宙に飛び上がったシルヴィアを目がけて、球体から射出された無数の赤い線が飛んでくる。 「くそ――ッ!」 空中で無理やり状態を捻り、何本かをやり過ごす。 だが、まだまだ、際限なく死は近づいてくる。 持っていた短剣で撃ち落とし、防御を繰り広げる。 しかし、いきなりガクッと、体の力が急激に失われていく。 全身を駆け巡る気を失いそうな激痛。口の中に溢れてくる鉄臭い味。 吐き気がこみ上げ、視界が滲んでくる。 なにが起こった。 それの原因が分かる前に、無数の攻撃が突き刺さらんと迫ってくる。 シルヴィアは急所となる頭と、心臓の辺りを覆うように、腕を交差させる。 腕に何本もの矢が突き刺さり、食い破ろうと暴れまわる。 「が……あっ……」 足を細い針のように突き刺さり、貫通し、地面へと音を立ててそれは突き刺さる。 さっきとは違う、外面的な痛み。 今度は気を失うような痛みではない。その逆。 それが遠くなるどころか、痛すぎて意識がはっきりしてきている。 喉を通って、赤い液体が口から溢れ出る。 地面へと落ちた彼の体に刺さっていた矢が、その衝撃を受けて、さらに深く刺さる。 「な……にが……?」 シルヴィアは血でべたつく唇を必死に動かし、言葉を絞り出す。 体に力が入らない。体力ならまだまだ余裕があったはずだ。 いきなり、全身に力が入らなくなったその疑問に――。 「毒だ」 ――トムが答えを教えた。
/338ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8878人が本棚に入れています
本棚に追加