休暇

52/54
前へ
/338ページ
次へ
だがそれでも抜かなければならない。 そうしなければ、今以上に彼の体に毒が回るのだから。 しかし彼はいつまで経っても抜こうとはしなかった。 代わりに服の内側に手をやり、小さな瓶を取り出す。 透明な液体が入ったそれを見て、トムの顔色が変わる。 自分の運命を左右する一品が取り出されたのだ。 「く……はぁ……」 苦しそうに息を吐くシルヴィアは力を振り絞り、瓶の蓋を開けようと指に力を入れた。 「今だ!」 その瞬間にトムが叫び、赤い球体から触手のようなものを飛び出させる。 球体に繋がったまま、それはシルヴィアが持っていた瓶を絡み取り、術者の方へと戻ってきた。 うねうねとした気持ち悪い物からそれを受け取ったトムは、笑みを浮かべる。 「やっぱり持ってたな、解毒剤を」 全ては想像通り。 猛毒の剣を持っているという事は、偶然にも自分を傷つけてしまった時の事を想像するのが普通だ。 そういう時に必要なのが、元々はシルヴィアが持っていて、今はトムの手にある解毒剤。 最初からトムはこの時を待っていたのだ。 「お前には悪いが、これは俺が飲ましてもらう」 一気に瓶の蓋を開けたトムは、中身を飲み干す。 それから空になった容器を横に捨て。地面に落ちて砕け散った音が聞こえてきた。
/338ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8878人が本棚に入れています
本棚に追加