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それまでの間、一言も発さなかった兄がようやく口を開いた。
女は一瞬、何を言われたのかわからないような顔をした。
「いい加減にしてくれないか」
二度言われて、ようやく女は理解したようだった。
見る間に化粧で描いた眉がつりあがる。
「何さ、作家ってそんなに偉いの!? あたしとかに本買ってもらってなんぼなんじゃないの?! ファンを大切にしないってサイテー!」
「写真撮るぐらいいいじゃない、何で怒るの、わっけわかんない!! もう買ってやんない! ファンのみんなにも言ってやるから!! 篁雨月はサイテー野郎だって!!」
「あっち行けよ!!」
気付けば僕の口が叫んでいた。
「さっさとあっち行けぇ!!」
目の前の女に対する憤怒が、腹の底から嘔吐感を伴って喉から迸り出る。
「おまえなんか二度と兄ちゃんに近寄るなぁっ!!」
女は僕という存在に初めて気付いたように振り向き、ごってりとルージュを塗った唇をわななかせた。
女は一言も口を利かずに砂浜を駆けだし、浜を上がったところの道路の向こうへと小さくなって消えた。
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