息苦しい日常

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「名刺?」 私は受け取るのを一瞬ためらう。 その間にいろいろな考えが頭を巡る。 この人は雰囲気からしてサラリーマンには見えない。 となると、名刺持つ職業なんて…ホスト? そういえば、この社交的で女慣れしてそうな感じはホストっぽいかも。 独断と偏見で決めつけた時だった。 奥から「ワァーー!」と歓声が上がる。 どうやら今夜のライブが全て終了したらしい。 「あ、ヤベ行かなきゃ。楽屋に顔ぐらい出さなきゃ、いなかったのがバレる」 突然立ちあがって慌てだす。今にも走り出しそうだ。 「え!?もしかして知り合いって今の最後のバンドの人だったの!?」 反応した私に、しまったバレた!という表情をする。 「大丈夫!気にしないで。ここでも歌声は聞こえてきたでしょ。君の話し相手は面白かったし。 じゃぁね、気が向いたらそこにおいでよ」 満面の笑みで手を振ると、出てくる客にぶつかりながら、そして律儀に謝りながら逆走して店の中に戻って行く。 引きとめてしまった私に気にさせないよう気を使ってくれたのが分かった。 なんてお人よしなのだろう。 好感が持てるけれど。
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