動き出す心

5/21
前へ
/261ページ
次へ
それはちょうどいいことに今開催中のようだ。 矢印の看板に従って人の気配は多いのに、話し声の少ない広い館内を歩き始めると児童書のコーナーを見つけた。 子供用の背の低い机と椅子が並び、小学生が数人、感心するくらいおとなしく本を読んでいた。 「……するとそこには!」 静かなこの場所で、ハッキリとした声が聞こえた。 小さな本棚に囲まれ、ピンク色のカーペットがひかれ、まるでそのスペースだけが幼稚園になったかのような場所に、子供たちが集まっている。 みなが楽しそうに、真剣に眺めているのは絵本。 そしてそれを子供たち以上に表情豊かに朗読している青年。 手に持つ名刺と同じネームプレートを胸に付けている。 「樹」 絶対に誰にも聞こえない、吐息交じりの声だったのに、彼が一瞬こちらを向いたので思わずドキッとしてしまった。 そんな私に構わず朗読を続け、残りのページを全て読み終わると「おしまい」と締めた。 沸き起こる小さな手からの拍手。 それを受けながら、樹はこちらに向かってくる。 私たちの口から出たのは極めて簡素なものだった。 「本当に居た」 「本当に女子高生だ」 制服姿の私を見て漏れた感想。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48007人が本棚に入れています
本棚に追加