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それはちょうどいいことに今開催中のようだ。
矢印の看板に従って人の気配は多いのに、話し声の少ない広い館内を歩き始めると児童書のコーナーを見つけた。
子供用の背の低い机と椅子が並び、小学生が数人、感心するくらいおとなしく本を読んでいた。
「……するとそこには!」
静かなこの場所で、ハッキリとした声が聞こえた。
小さな本棚に囲まれ、ピンク色のカーペットがひかれ、まるでそのスペースだけが幼稚園になったかのような場所に、子供たちが集まっている。
みなが楽しそうに、真剣に眺めているのは絵本。
そしてそれを子供たち以上に表情豊かに朗読している青年。
手に持つ名刺と同じネームプレートを胸に付けている。
「樹」
絶対に誰にも聞こえない、吐息交じりの声だったのに、彼が一瞬こちらを向いたので思わずドキッとしてしまった。
そんな私に構わず朗読を続け、残りのページを全て読み終わると「おしまい」と締めた。
沸き起こる小さな手からの拍手。
それを受けながら、樹はこちらに向かってくる。
私たちの口から出たのは極めて簡素なものだった。
「本当に居た」
「本当に女子高生だ」
制服姿の私を見て漏れた感想。
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