動き出す心

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建物の壁づたいに辿っていくと、裏庭のような場所に出た。 手入れのされた芝生が広がり、大きな木の下にベンチが一つだけあった。 少し離れた場所に自転車置き場が見えたが、そこにわずかに人の気配がするだけで、みなガチャガチャと慌ただしい音を立てながら、足早に消えていった。 静かになったこの場所は、まだ図書館内にいるようでありながら、夕方の涼しい風のせいで気持ちがいい。 ベンチの汚れを確かめながら、まぁそれなりにきれいだなと判断するとそのまま座った。 そして読みかけだった本をまた開く。 この本を返却するときにまたここに来てもいいのだ。 樹に会えることを想像すると、内容などあまり頭に入って来なかった。 しばらくすると後ろからガラッという窓を開けるような音がした。 だけど振り返らずにいると名前を呼ばれる。 「美桜」 心臓が跳ねて、すぐに声のした方向を見ると、樹が窓から身を乗り出して手を振っていた。 「終わったの?」 結局数ページしか進んでいない本にしおりを挟み、小走りで駆け寄る。 そんな自分をまた犬のようだな、と思った。
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