48007人が本棚に入れています
本棚に追加
建物の壁づたいに辿っていくと、裏庭のような場所に出た。
手入れのされた芝生が広がり、大きな木の下にベンチが一つだけあった。
少し離れた場所に自転車置き場が見えたが、そこにわずかに人の気配がするだけで、みなガチャガチャと慌ただしい音を立てながら、足早に消えていった。
静かになったこの場所は、まだ図書館内にいるようでありながら、夕方の涼しい風のせいで気持ちがいい。
ベンチの汚れを確かめながら、まぁそれなりにきれいだなと判断するとそのまま座った。
そして読みかけだった本をまた開く。
この本を返却するときにまたここに来てもいいのだ。
樹に会えることを想像すると、内容などあまり頭に入って来なかった。
しばらくすると後ろからガラッという窓を開けるような音がした。
だけど振り返らずにいると名前を呼ばれる。
「美桜」
心臓が跳ねて、すぐに声のした方向を見ると、樹が窓から身を乗り出して手を振っていた。
「終わったの?」
結局数ページしか進んでいない本にしおりを挟み、小走りで駆け寄る。
そんな自分をまた犬のようだな、と思った。
最初のコメントを投稿しよう!