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窓の位置が少し高くて普段よりも余計に顎を反らさなければ樹と目の合う高さにならなかったが、樹が腰を折って窓枠に肘をついたので、だいぶ距離は縮まった。
「今日は早番だったから閉館後の仕事はなしでもう終わったよ」
「おつかれさま。あ、じゃあ他の人もここに来る?」
それだと気まずい思いをさせそうで一歩下がろうとすると、樹はニヤッと無邪気な少年のように笑った。
「ここ、元倉庫で狭いんだけど、男子休憩室なんだ。でも男って俺と館長しかいないし、館長は着替えもしないから、実質、俺だけの小部屋になってる」
嬉しそうで自慢げだ。
背伸びをして中を覗くと、利用者は一人だというのにロッカーが3つほどあり、固そうな皮のソファと小さなテーブルの上にはタバコと灰皿。
それになぜかサッカーボールやバンドのポスターなど、彼の私物らしきものと、館内の不要な古そうな備品が並んでいた。
6畳くらいの部屋が物に占領されて狭くなっている。
だけどそれが余計に秘密基地のようで魅力的に感じる。
「へーすごい。私も入りたい」
自然にそう言ってしまっていた。彼の空気に触れてみたかった。
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