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「美桜、今日はパパ帰りが少し遅くなるかもしれないんだ。といっても電車を2、3本ズラすだけだから」
「わかった」
モグモグと口を動かしながら答える。
「じゃ、そろそろ、いってきます」
父が時計を見ながら立ち上がり、私も、いってらっしゃい、と言いかけた時だった。
母の声で二人の動きが止まる。
「どうして私には言ってくれないの?」
あぁ、やってしまったな。と瞬時に悟る。それはきっと父も同じだ。
今日はそっちの気分の日だったのか。席を立つから、構って欲しくない日だと思ったのに。
間違いに気づくが、私にも時間はない。
これくらいなら父一人でも乗り切れるだろう。
パンを一気にコーヒーで流し込んで食器を流しに運ぶ。
「違うよ。今のはママも聞いてると思って」
「嘘よ。美桜にだけ言ったわ。いってきますの挨拶も、どうして私にはしてくれないの。私が見えないの?」
「そんなことないよ。今ちゃんと言おうとしたんだ。見えないなんてそんなことあるわけないだろ?」
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