第1章 まさかまさかのハプニング

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そのまま俺は唯さんに玄関まで付き添ってもらう。ここに入った時同様、無駄に豪華なシャンデリアが見送ってくれた。 「じゃあ、ここまでで良いですよ……また、明日」 ああ、ここまで来てすっげぇ名残惜しい。ってか、この台詞が恋人関係で言えたならどれだけ幸せだろう。ま、無駄な妄想か。 「では、気をつけて帰ってくださいね」 ふ……最後に笑って見送ってくれる唯さんが見られただけでも、もう死んでもいいや、とか思うぜ…… 青春だねぇ。俺。 最後に軽く頭を下げて、潤江田邸に背を向ける。 まさか1日で唯さんにこんなに近付けるとは……超感謝だ綾! さぁて……後は明日の俺に任せるか。 ──────── 俺の背中が視界から消えた頃、ポツンと1人、玄関に立つ唯さん。 春とはいえ、少しばかり肌寒い夕時の風が、綺麗な頬を撫でている。 そんな唯さんは、すでに人1人といない広大な庭を何か寂しげな視線で眺めつつ、ポツリと一言、誰にも聞こえないような声でこう呟いた。 「……父様や母様が毎日ここに居れば……ああいう話ができる時間も日常なんでしょうね……」 その声は誰にも届かない。ただ冷たい風に飲まれ、消えてゆく。 うっすらと……うっすらと。
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