壱の章

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鮮血の毛色を持つ<獣>は、何も見えない森の中を只静かに歩いていた。 背負う大剣は其の<獣>の強さを表しているかの様で、刃の部分は鈍く煌めいている。 背の中間辺りまで伸びた髪は無造作に放り投げられ、風に思うがままに遊ばれていた。 <獣>は気にする様子も無く、只ひたすら闇夜の中を歩き続けて居る。 まるで何かに、呼ばれて居るかの様に。 ――Ω―― 未だ十代前半であろう<人>は、苦し気にその場に蹲っていた。 肩から滑り落ちる橙が何とも妖艶で、其の細すぎる肢体からどう見ても男とは思えない。 切な気に、然し焦りを強く含んだ其の顔は、寒さを堪える様に歪められていた。 季節は冬。 雪こそ降っていないものの、真冬の深夜を寝着一枚でウロウロする事は非常に身体に厳しい。 ――そんな事は理解しているつもりでも、あの場所に居たくはなかった。 あの場所に居たら魔物に捧げる生贄に差し出されていた筈だ。 見付かれば殺されるかもしれない。 否、確実に殺される。 ………其れは魔物に? それとも、村人に………? 其の時だった。 遠くの方から足音が聞こえてきたのは。 .
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