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僕と月との直線上、空に近いジャングルジムのてっぺんに座っていたその人の後ろ姿に、思わず見とれた。
黄金色の月明かりに浮かび出された輪郭は、流麗な長髪をしなやかになびかせて。
宵闇に映し出されたシルエットは、まるで絵画のような絢爛さと、一切の干渉を許さない荘厳さを醸し出していた。
……ま、干渉は許されないにしても鑑賞は許されるでしょ。
なかなか上手いことを言ったと思いながら、僕はちょっと後退して音を立てないようにゆっくり座った。
その景色を壊したくないという願望と、ずっと眺めていたいという欲求の先の結論、当たり前の行動。
僕は少しだけ残っていたジュースを、さっきにも増してちびちびと飲み始めた。
その影が女性であることは明らかだった。
まぁ、うん、なんか覗き見しているみたいで、背徳感はあったよ。これ本当。
◆---
いつまでそうしていたかは分からない。
100mlの缶ジュースがあっという間に無くなった。そう思ったのが遠い日のようだ。そして一周回ってまた喉が渇いてきた頃。
不偏と思っていた絵画のようなその景色に変化が起こった。
遥か昔からとそうしていた、これからもそうしていく。
動こうとしない、いやむしろ、そこに張り付いて動けない。
そう言わんばかりにジャングルジムのてっぺんに腰掛けていたその人は、何を思ったか急に立ち上がったのだ。
「──!」
思わず息を呑む程に自然なその一挙手一投足を、視線が追いかける。
彼女の漆髪が、夜空に舞った。
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