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それは、かつてフランドールと遊んだ時に感じた、とてつもない恐怖に酷似していた。
「──っ!?」
本能で飛び退く。
ついさっきまでジャングルジムのてっぺんに立っていたはずなのに。僕は瞬きすらしていないのに。
理屈を常識を凌駕して、なぜ彼女は僕の前に立っている。
「あら、そこまで怖がらなくてもいいのに」
間近で正対するその人は確かに、いや予想より遥かに綺麗だった。
綺麗だったけどその分、それに上塗りされた恐ろしさが途方もなく大きく、際だってしまう。
月明かりによって夜はそれらしくなく明るいが、その月を背後にしたその女性の表情は窺い知れない。
ただ、そのまるで雪のように白いその手が僕に差し伸べられた。
向けられた掌。長い指。友好的に見えるその行為に、一瞬、肺を満たす淀んだ空気を吐き出しかける。
しかし。
彼女の「でも──」と、呟かれた声と共に、それは唐突に、無慈悲に裏返された。
「裏を返せば『怖いと思うことができる』ということよね」
「──ぁっ」
裏返された掌は、僕の安堵を裏切るかの如く。
彼女の言葉は、その肌が連想させる雪より遥かに冷たく。
完全なる、恐怖。
フランドールの時と同じように、本能っぽいなにかが警鐘を打ち鳴らす。
逃げろ、逃げろ、と。思考はそれだけを声高に叫ぶものの、運動を司る神経がそれに応じることができなければ、行動に移すことなどできるはずもなく。
結局僕は、また「そういうこと」に巻き込まれていた。
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