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「さっき私が貴方の前に立った時、『怖い』と思ったでしょう?」
不意の言葉に、どきりとした。
それが事実だったからだ。そして、そのことを思い出させられたから。
「それは当たり前。未知の体験や無知による恐怖は誰しも抱くもの。
でもそれって形はあるかしら?
……答えは否。
形はないのに、それは確かに存在する。ゼロのようで、ゼロではない。それが、無形の本質」
……な、何を?
いきなり語り始めた彼女を前に、今度は僕が目を丸くする番だった。
「要するに、気付くということができたあなたを褒めてるのよ」
口元に微笑を湛えていることに気付くほど、満月に照らされ仄明るい夜半。
未だ、僕と月との間に立つ彼女との位置関係は変わっておらず、先ほどよりかなり近くなった彼女との距離を持ってしてもその輪郭は黄金に縁取られていた。
僕はその姿にまた軽く酔いながら「はぁ、」と軽返事を返した。
「察知する、確認する、認識するということは、あらゆる観点に於ける最も重要かつ基礎的な要素なのよ。
永遠は果てしないゼロの連続。須臾は限りないゼロへの帰属。ゼロを"無"とするならば、形"無"きものを認識できるということは即ち永遠と須臾を知るということ」
よ、よくもまぁ噛まずにすらすらと。……などと、彼女の滑舌を評価している場合じゃない。
永遠となんちゃらを知る、って、なんのこっちゃ。
それとなく特別感漂う言いぐさだけど、胡散臭さの方が先走ってるから信用ならない。
……それに、なんかまだ続きそうだから。
渋々、それを促してみた。
「……それで?」
「あなたには私の難題を受ける義務がある」
あれ?
少しずつだけど理解していたはずなのに、急に何も分からなくなったよ?
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