四譚 変容

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□  机に頬杖を突き、窓枠に切り取られた空を眺めてみる。なんとなくロマンチストのように見えなくもないかもしれないが、その実、僕はぼーっとしているだけである。  先生が黒板に走らせるチョークの音、声。時折鳴る、誰かのバイブレーション。窓の外では小鳥がダンス。  ……学校だなぁ。 「叶がいつもの二倍ぼーっとしてるぞ」 「人はあんなにぼーっとできるのねぇ」 「分かった、アイツは『ぼーっとする程度の能力』の持ち主のはずだぜ」  ひそひそ声で話す三人だが丸聞こえだ。みんながみんな、隠し事が苦手なのだから当たり前か。そして否定できないのが悲しい。  とはいえ、何も考えてなかったわけではない。かといって授業に耳を傾けていたわけでもないけど。  さて、窓の外を眺めるのはやめよう。  それは現実頭皮……否、逃避に他ならない。  そうして、僕は視線を頭皮に向けた。  前方の、黒板と格闘している先生の頭皮に。  現国の教師である彼はまるで絵に描いたような中年のおっさん先生として有名である。  立ってるだけで汗だく、出るに出たビールっ腹、それもあってちょっと小太りで、そして極めつけとしてヅラである。本人は否定するものの、学生の間でまことしやかに囁かれている、その噂は事実であると専らの有名である。彼はヅラである。  そう、今回のターゲットはヅラである!  ヅラである!
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