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『龍の首の珠……中年の頭のヅラ……? そうね、それがいい。それにしましょう』
反芻するワードその1。昨日の別れ際、彼女が言った言葉である。
お願いだから、もう少し言葉の中に脈絡が欲しい。意図不明にも程がある。
……「龍の首の珠」というワードに少々、思うところがあったが、特に深く考えないでおいた。
との事であるので、「中年のヅラを奪取せよ」と、彼女は力説していた。んな無茶な。
「はぁ……」
長くその残念な頭部を注視していると、ヅラがややズレているのが分かった。残念の累乗だ。
僕も、ああはなるまい。人知れずそう決意すると同時に、自分の考えていることが凄くばからしくて溜息が出た。
一体、どうやってヅラを奪取しろと。考えども考えども、名案どころか光明の一つすら差し込まない。
「ふぅ……」
二度、溜息を吐き、視線を再び窓の外へ逸らした。
さっきは気付かなかったが、晴天の青空の中に、朧気に月が浮かんでいた。時々、昼間でもそうやって月が顔を出すことがある。
青白く、淡く薄く佇むそれを見ていて去来するものは、やはり彼女のことだった。
ふと、机の上に雑然と置かれた文房具の中の、ルーズリーフの端に目を落とした。
そこには、何度も繰り返し書かれ過ぎて、すでに読むこともままならなくなった一文があった。
『僕の望み』
反芻するワード、その2だ。
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