四譚 変容

17/39

451人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
    『龍の首の珠……中年の頭のヅラ……? そうね、それがいい。それにしましょう』  反芻するワードその1。昨日の別れ際、彼女が言った言葉である。  お願いだから、もう少し言葉の中に脈絡が欲しい。意図不明にも程がある。  ……「龍の首の珠」というワードに少々、思うところがあったが、特に深く考えないでおいた。      との事であるので、「中年のヅラを奪取せよ」と、彼女は力説していた。んな無茶な。     「はぁ……」      長くその残念な頭部を注視していると、ヅラがややズレているのが分かった。残念の累乗だ。  僕も、ああはなるまい。人知れずそう決意すると同時に、自分の考えていることが凄くばからしくて溜息が出た。  一体、どうやってヅラを奪取しろと。考えども考えども、名案どころか光明の一つすら差し込まない。     「ふぅ……」      二度、溜息を吐き、視線を再び窓の外へ逸らした。  さっきは気付かなかったが、晴天の青空の中に、朧気に月が浮かんでいた。時々、昼間でもそうやって月が顔を出すことがある。  青白く、淡く薄く佇むそれを見ていて去来するものは、やはり彼女のことだった。      ふと、机の上に雑然と置かれた文房具の中の、ルーズリーフの端に目を落とした。  そこには、何度も繰り返し書かれ過ぎて、すでに読むこともままならなくなった一文があった。     『僕の望み』      反芻するワード、その2だ。
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

451人が本棚に入れています
本棚に追加