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学校は縮小された社会そのもので、そこにはしっかり社会的強者と弱者──教師と生徒の関係が存在する。弱肉強食とは言わないが、僕ら生徒は教師に服従が、一番あるべき姿なんだ。
しかし、僕はその教えに背いて、教師のヅラを奪取するという禁忌を犯そうとしている。
そうしなければならない運命を呪った。良心の呵責という意味でも、自己保身という意味でも。どうにか、ヅラを奪取する以外に良い方法はないものか、思案は尽きない。
(──っていやちょっと待て)
そうする必要ないんじゃないかな!?
そうする必要がどこにあるのかな!?
そんな必要が一切ないことに気付いた。何がどうして僕が危険を冒して、誰がどうして得をするだろうか。考えれば考えるほど、彼女に踊らされていたことが馬鹿らしくなった。彼女が悪戯っぽくニヤニヤ笑っている表情が脳裏に浮かんだほどだ。
あぁ、もう、と僕は頭を抱えた。ちょっと考えれば分かることなのに、僕は一体何をやっているのだろうか。
「あぁぁぁあぁ」
「……何してるんだ、叶」
そんな僕の様子を訝しんだのか、宗一郎が隣から小声で話しかけてきた。
実は、本気でヅラを奪取する時の唯一にして最大の策として宗一郎が頭の中にあった。宗一郎なら、スマートだろうと強引だろうと馬鹿だろうと、ヅラを奪取するくらい簡単なことだからだ。勘違いされがちだが宗一郎は自発的に悪戯をしないけど、スイッチが入ったら頭までキレるから、こんな時は頼りになる。
とはいえ、僕から悪戯を誘うなんて、そんな度胸あるはずもなし。
結局、その策はお蔵入りしていた。
僕の苦悩の全部が徒労に終わったことを考えれば、この話もただのお笑い話。
「いや、それがさぁ」
僕は苦笑いを浮かべつつ向き直り、一昨日の夜、彼女と出会ったことを話し始めた。
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