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「……さて」
ジャングルジムのてっぺんとその下、つまり初めて出会った時と同じ配置の僕と彼女。
やはり夜空には綺麗な月。絵に描いたような光景の中で、彼女はしばしの静寂の後、言葉を発した。
「ここまでの難題をクリアしたあなたに、私の名前を知る権利を与えましょう」
「……あぁ、そういえば」
そういえば知らないな、名前。知らないのによくここまで会話が成り立っていたと思う。
僕は黙って次の言葉を待った。
「私の名前は、蓬莱山輝夜」
「かぐや……」
繰り返して、真っ先に連想するのは「竹取物語」の主人公。そこから数珠繋ぎのように、想起の連鎖が始まった。
蓬莱の玉の枝と称して、彼女は僕に木の枝を持って来させた。
龍の首の珠として、中年の頭のヅラを。
仏の御影の鉢として、漬け物石を。
燕の子安貝として、燕の丸焼きを。
火鼠の皮衣として、……霊夢さんのぱんつを。
これらは全て、「竹取物語」において「かぐや姫」が数多の雄たちに仕掛けた難題に当て嵌まる。……まぁ、僕に持って来させたのは関連性皆無の品々ばかりだけども。
かぐや姫はやがて月に帰るのが物語のオチ。かぐや姫と月というのは切っても切れない関係にある。
そして、彼女──輝夜さんがいつもジャングルジムのてっぺん、つまり月に近いところでそれを眺めていること。
それらも、決して偶然の一致とは思えないものだった。
ただでさえ、「ゲンソウキョウ」などという不思議の国からやってきているんだし。そのうち、不思議の国のアリスさん、とか来たりしてね。あはは。
どれもこれも、なんともない予想の話。ただ、どれもこれも、予想を確信に変えてくれるだけの根拠と理由がある。
お伽噺もあながち身近なものなのかもしれないな、と柄にもなくロマンチックなことを思った。
彼女は一つ頷いた。
そしてゆったりした口調で告げる。
「これから始まるのは、私から貴方への『最後の難題』。これをクリアすることができたなら、あたなの望みを叶えてあげるわ」
僕を悩ませたその一言を放った後、妖艶な笑みを浮かべた。
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