451人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
「も、もう始まるの!?」
サディスティックな笑みを浮かべた輝夜さんは、僕を見下ろし、黒天に座する月へとそのスペルカードを掲げた。
「さぁ、永い夜が明ける頃、あなたは生きていられるかしら?」
ぞくりと、僕の全身を駆け巡る大波を感じた。やばい、始まる。予感がした。
輝く月に同調するように金色の光を放つ、彼女の右手のスペルカード。一際大きく輝くと同時に、彼女の楽しげな旋律が鼓膜を振るわせた。
──永夜返し
始まった。
世界を包んでいた宵闇が閃光に圧倒されていく。眼前に現れた無数の光の弾。渦を為し、数多の軌道を描き、際限なく拡がり、視界を埋め尽くしては蹂躙していく。
規則的な不規則。術者に統率された完全な無秩序。非現実の権化にして、あらゆる存在を排斥する弾丸の群れ。
動体視力と反射神経を否応なく総動員。五感全てと信頼に足る第六感が膨大な情報を脳へ伝達──理解に要する許容量を一瞬にて振り切る。
理解なんて、遥か彼方。
ネオンの嵐のように光り狂う狂気の軍勢に、僕はただ圧倒され、ただ立ちつくした。
「──べふっ!?」
後頭部痛いっ!
被弾確認、たんこぶ出来そうっ!
思わず手で触れるとヒリヒリした。どうやら血は出てないようだ。
何もしないうちに一回死んだ。
でも、僕は難題をクリアできなかったってことだし、これで終わりでしょ?
僕は涙が出そうになる目頭を押さえながら、期待を含ませた視線を輝夜さんに送った。
「はい、一回目ー。随分早いわねぇ」
──永夜返し
「えぇっ、当たったら終わりじゃないの!?」
「そんなわけないでしょう、夜明けまで続くわよ」
「信じたくない!」
「まぁ、私を倒したら止まるけどね」
それが無理だと分かってるから輝夜さんは可笑しそうに笑ってるんだろうなぁ。
それが無理だと分かってるから僕は顔が引きつってるんだろうなぁ。
先の永い拷問が始まった。
こういうのを「永遠」のようだ、っていうんだろうな。
最初のコメントを投稿しよう!