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弾幕は彼女の登場に合わせるようにいつの間にか止んでいた。
そうして、突如として僕の眼前に厳然と登場した少女は、真っ直ぐ僕らを見下ろして口を開いた。
「まったく、魔理沙は惚けてるし宗一郎は道場に籠もりっぱなし、叶はふらっと深夜に徘徊するようになったかと思えば、空にはバケモノ月。やれやれだわ」
ふぅ、と悩ましげに溜息を吐かれた。
「バケモノ月とは心外ね」
応えたのは、今まで僕に難題を課していた月の姫。
空いた左手で愛でるように月の輪郭を撫で、
「こんなにも綺麗なのに」
「綺麗なだけならまだしも、有害な月なんてお月見に向かないでしょ」
「少なくともあなたには無害よ」
「そういう問題じゃない」
緊迫した雰囲気が二人の間に流れている。引き絞られた弓のように危うげで今すぐにでも解き放たれそうな、敵意。既にもう、輝夜さんの意識は僕になんて向けられていなかった。
改めて、思う。僕がよく知る彼女は、こうまで人を惹き付けるのだと。……良くも悪くも。
僕は思わず、その名前を呼んでいた。
「霊夢さん……」
紅白の巫女服を夜風に棚引かせ、艶のある黒髪を揺らして霊夢さんは僕を見た。
そしてまるで親の仇(カタキ)を見つけ出したかのような怒りの形相を浮かべ、人差し指は僕を突き殺そうとしているのか、まっすぐ僕に向けられた。
「許してないから!」
「本当にごめんなさい」
「ぱんつならここにあるわよ」
「お願いやめて!」
生まれて始めて、土下座してまで許しを乞いました。
霊夢さんはそれに一瞥くれると、ちょっと頬を染めてふいと顔を逸らした。
顔を逸らした霊夢さんと目があう。ごめんすっごく気まずい。
今度は顔を逸らされた。逸らされて、そしてまた霊夢さんは輝夜さんと正対した。
「……成敗」
「却下よ」
ああもう、なんでこう、僕の周りは血の気が多い人ばかりなのかな。
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