四譚 変容

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   弾幕は彼女の登場に合わせるようにいつの間にか止んでいた。  そうして、突如として僕の眼前に厳然と登場した少女は、真っ直ぐ僕らを見下ろして口を開いた。    「まったく、魔理沙は惚けてるし宗一郎は道場に籠もりっぱなし、叶はふらっと深夜に徘徊するようになったかと思えば、空にはバケモノ月。やれやれだわ」    ふぅ、と悩ましげに溜息を吐かれた。   「バケモノ月とは心外ね」    応えたのは、今まで僕に難題を課していた月の姫。  空いた左手で愛でるように月の輪郭を撫で、   「こんなにも綺麗なのに」 「綺麗なだけならまだしも、有害な月なんてお月見に向かないでしょ」 「少なくともあなたには無害よ」 「そういう問題じゃない」    緊迫した雰囲気が二人の間に流れている。引き絞られた弓のように危うげで今すぐにでも解き放たれそうな、敵意。既にもう、輝夜さんの意識は僕になんて向けられていなかった。  改めて、思う。僕がよく知る彼女は、こうまで人を惹き付けるのだと。……良くも悪くも。  僕は思わず、その名前を呼んでいた。   「霊夢さん……」    紅白の巫女服を夜風に棚引かせ、艶のある黒髪を揺らして霊夢さんは僕を見た。  そしてまるで親の仇(カタキ)を見つけ出したかのような怒りの形相を浮かべ、人差し指は僕を突き殺そうとしているのか、まっすぐ僕に向けられた。   「許してないから!」 「本当にごめんなさい」 「ぱんつならここにあるわよ」 「お願いやめて!」    生まれて始めて、土下座してまで許しを乞いました。  霊夢さんはそれに一瞥くれると、ちょっと頬を染めてふいと顔を逸らした。  顔を逸らした霊夢さんと目があう。ごめんすっごく気まずい。  今度は顔を逸らされた。逸らされて、そしてまた霊夢さんは輝夜さんと正対した。   「……成敗」 「却下よ」    ああもう、なんでこう、僕の周りは血の気が多い人ばかりなのかな。
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