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「みんなと笑って過ごすために」
口にすると、胸に詰まっていたものがすっと消え、代わりに決意が宿った。
もう絶対離さない、僕の願いだ。
拳に入れていた力を抜いた。掌に爪が食い込んでいてじわじわと痛みが残ったが、良い発奮剤だ。
何よりまず先に一歩踏み出した。二歩、三歩と足を進める。
「叶……?」
霊夢さんが僕に気付いた。汗で髪が張り付いた顔に怪訝の色を浮かべている。
視線を合わせたがそれは一瞬で、霊夢さんは僕の視界からいなくなった。僕が霊夢さんに背を向けて前に立ったからだ。輝夜さんを睨み、正面に立ちはだかったからだ。
「……いい顔ね」
「ありがとう。輝夜さんのおかげで大事なものに気付けたよ」
「でも、あなたに何ができるの?」
「せめて大事な物を守れるようになりたい。そのために、強くなりたいんだ」
「……で?」
僕を試すように、輝夜さんが次を促した。
僕は間髪入れずに答える。
「難題が、途中だったね」
「叶っ──!」
後ろで短く僕を呼んだ霊夢さんを、無言で制した。振り返ることもせず、手で制することもせず、ただ僕は輝夜さんだけを正視し続けた。
僕の気持ちを悟ってくれたのか、それともいつものように呆れることすら果てたのか、霊夢さんはもう何も言わなくなった。
代わりに正面にいる輝夜さんが、品定めするような目で愉しそうに僕を見ていた。
「いい顔ね。本当に、いい顔になったわ。どういう心境の変化かしら?」
「変化はないよ。ただ、僕が持っていた本当の願いってやつに、やっと気付けただけ」
「……ふぅん。じゃぁ、私の難題に答える気なのね?」
首肯する。掌の爪の痕と、胸に宿る意志の裏側にある罪悪感を駆り立てる霊夢さんの乱れた吐息が、僕の意志をより強くした。
「こんな弱い僕だけど、やれるだけやってみる。終わったあとに、少しでも強くなれたと思えるように。大事な物を守れるように。
──みんなと笑って過ごすために」
しっかりと強く、言の葉に思いを乗せた。
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