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五体満足とはよく言ったものだ。
両手、両足、あとは……なんだっただろうか。頭か、どこかだろうか。
とにかく、健康な体のことを古来から"五"体満足という。
自分がベッドに横たわっていることに気付いた。そこが夢からの覚醒だった。
五体の満足を確認する。
右手、異常なし。
左手、異常なし。
右足、異常なし。
左足、異常なし。
頭……、おそらく異常はないだろう。
翼、異常なし。
考えるまでもなく、五感のうちの触感の域が広い。気付くまでもなく、当たり前のようにそれがある。あえて言うとしたら、腕か足が二本ほど、余計に生えている気分だった。
"それ"はずっと使っていなかったかのように触感が薄弱だったものの、疑念の余地すらないほどに、それは僕にとって違和感のない──然るべき、というべきか──ものだった。
上身を起こし、まずはぐっとひと伸び。腰を捻って、強張った腰骨をばきばきと鳴らす。首も同様に、右、左、右。
肺の底に溜まっていた空気を、やんわりと吐き出す。
頭の中にかかったもやのような眠気に、大きく口を開いて欠伸する。
はふ、と情けない声を出しながら気持ちいい欠伸を終え、目を数度、しばたたかせる。
起こした上身を捻って、横目で背中を見やった。
そこにあったのは、白い──
「あぁ、そっか。翼、生えたんだっけ」
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