五譚 軋轢

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 改めて部屋を見渡す。まごう事なき、僕の部屋だ。胡座をかいて座りながら眠っている大柄の男──天谷宗一郎も含め、見慣れた光景だ。  というか、いたんだ宗一郎。  僕が腰骨や首の骨を鳴らす音にも起きる気配がないところを見ると、どうやら本当に眠っているらしい。      起こさないようにと息を殺しながら、ベッドを横付けしている壁の窓に手をかけ、開く。  部屋に入り込んできた澄んだ冷たい空気に、ぶるりと身震いする。朝方はまだ寒い季節だけど、今日はより冷える。大きく朝の空気を吸い込むと、白く濁った頭の中もクリアになった。  ベッドの上で膝立ちのまま、僕は暫し、外を眺めていた。      遠くから白んできた空。太陽の気配から逃げるように姿を消した月。数日続いた満月の夜、我が身に降りかかった不運の記憶が、少しずつ蘇ってきた。         □
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