一譚 希望の果て

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    □  冷気を孕んだ風が強く頬を叩く。空に近いこの場所には、力強く風が吹き抜けている。春風穏やかなどというのは地上だけだ。  また、一陣の風が僕らの間を通りすぎていった。少女の麗らかな髪が飾られたリボンと共に風にさらわれていく。  風と同じ冷たい色を映した視線が僕の襟元から入り込み肌を直に刺した。  そんな時だった。その唇が言葉を紡ぐ。 「悪いんだけど、ちょっと……わよ」 「え?」  声が聞こえなかったのは、きっと強い風のせいだ。肝心な部分が中抜けしてしまって、真意が掴めない。  僕が聞き直したことに機嫌を悪くしたのか、少女は僅かに目を細めた。それだけで空気の重さが変わってしまった、そう思ってしまうほどに迫力があった。 「ちょっと痛い目見て貰うわよ、って言ったの」  お札と紙垂を構えたその姿は、疎い僕から見ても戦闘姿勢にしか見えない。  なぜ僕がこうなっているのかなぁ、とさっきから脳内を駆け巡る疑問一つ。それと同時に、やっぱり昨日あんな場面を見ちゃったからだろうなぁと心の中で一々問答する僕。  少女は一歩踏み出した。反発する磁石のように、同じだけ後退する僕。  距離は変わらず、代わりに不安だけが大きくなる。 「一体どういうことだ、説明してもらわないと意味が分からん」  僕の隣に立つ宗一郎が涼しい顔で問う。宗一郎がいなかったら僕は裸足で逃げ出していただろう。僕が弱虫なこともあるけど、宗一郎の肝っ玉が据わりすぎているってこともある。巫女少女の眼光はまるで僕の体を射抜くかのように鋭い。  対峙する二人の間に言いしれぬ緊張が流れる。  そんな時に場違いと思えるほど陽気な声で答えたのは金髪少女。 「すぐ終わるさ。ちょっと痛いけどな」  その手には、どこから持ちだしたのか竹箒が握られている。  にかにかと悪戯っぽく笑うその顔には、悪気のようなものが少しも見られない。遊びだ、そう顔に書いてる。 「痛いのは慣れてるが、好きではないんだよな」 「おぉ、抵抗権は認めるぜ」  ああもう、挑発しないでよ。  
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