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何の変哲もない中庭に着いた。中庭に用事があるわけではなかったし、手持ち無沙汰だったのですることがない。おまけに寒かった。
それでも外に出たかった理由。
理解はしてなかったけど、自覚はあった。
逃げたかったんだ。
「……っ」
考えないようにしていた。普通でいようとした。いつも通り、過ごそうと思っていた。
でも、やっぱりそれはそこにあって、目を背けることなんかできない。なにせ、それも"僕"の一部なのだから。それに包まれている僕が感じている温もりは、紛れもなく僕の体温だ。温もりを感じるたびに、不安は膨らむ。
背けようのない現実から逃げたかった。
でもそれは叶わない。
この僕が、現実そのものなのだから。
家の壁に背を預けて俯いていると、冷たい地面と目があった。
僕の体が沈みはじめた。
地面は細かい砂の粒子になって、僕の体を飲み込む。抜けだそうともがくが、もがくほど体は沈んでいく。自力で這い上がることもできない。必死に手を伸ばしたって、誰も助けてくれやしない。広大な砂漠の真ん中。僕はやがて砂に飲まれて消えていく。
そうして、僕はいなくなった。
耳を劈く静寂の中、僕は誰にも気付かれることなく消えていった。
はっと我に帰ると、外気は冷え込んでいるというのにびっしょりと汗をかいていた。
そんなに長い時間を過ごしていないのに、不快な汗が全身から滲んでいた。
動悸が激しい。汗が急激に冷えて、体の芯を凍て付かせる。息が苦しかった。
僕は壁によりかかったまま、膝を抱えて座り込んだ。
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