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時間の感覚もなく、ただ座り込んで俯いていた、そんな時だった。
『見つけた』
「っ!?」
なんの脈絡もなく唐突に頭の中で"声"が響いた。思わず飛び上がり周囲を見渡す。しかし何もない。声はおろか、物音の一つもしない。鼓膜を震わすものは何もないというのに、声が聞こえる。
『でも、ここだと目立つわね』
声質から言って、女性。しかし四方八方、その主の姿は無い。気付けば声を荒げていた。
「だ、だれ!? どこ!?」
見えない声の主が、小さく嘆息したように思った。目に映らないのに、その女性はあまりに存在感を放つ。
姿無き声。形無き恐怖。何もかもが常軌を逸した事態に、本能が激しく警鐘を鳴らす。
走りだそうとして、気付いた。……どこへ逃げればいい?
動悸は抑えられずに、ただ首を動かし、声の主を探す。前後左右、上下まで見渡した時、そんな僕を嘲笑うかのように、またあの不気味な声が鳴り響く。
『行きましょう』
肉の裂け目を思わせる亀裂が空間に現れる。中心には、飾りとしか思えない無感情な"目"が、僕の方を向いていた。
幾つも、幾つも、あまりに非現実的な恐怖の連続。
その一つに、僕は飲まれていった。
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