五譚 軋轢

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 自分の叫び声がいつまでも耳に残る。叫びすぎて喉が痛い。それでも憤りはちっとも収まっていない。  沈黙を保っていた女性が、ようやく口を開いた。     「謝罪するわ」      事務的に、彼女は告げた。  その言葉の抑揚の無さは、誠意の薄さの裏返しのように感じた。  さきほどまでの嘲笑的な意図は感じないが、どことなく気圧されているような感覚に苛立つ。      でも、この人が僕に何かしたわけじゃない。このワケが分からないモノが生えた原因でもない。  なのに、感情の赴くままに怒りをぶつけるのは理不尽だ。  頭では分かっているのに、怒りを押し込めることが出来なかった。  僕はこんなに自制心の無い人間だったか。  いや、仕方ない。僕は悪くない。悪いのは──    ──悪いのって誰さ?      それが分からないから苛立ってるんじゃないのか。  早く押しつける相手が欲しい。  苛立ちをぶつける相手が欲しい。  それはエゴか?  誰かに押しつけるのはお門違いか?  いや、僕が被害者だ。悪はどこかで僕を嘲笑ってる。     「……くそっ」       黒々とした感情に対しての、舌打ち。僕ってこんな人間だったのか。  これが生えて僕はおかしくなったのか。それとも、"普通"という自衛の殻を失った今の僕が、僕の本質だとでも言うのか。  いや、それとも──  もう僕は、  僕でなくなってしまった?
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