五譚 軋轢

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  □     「それは、手の届く世界ですか?」      空の中、彼女が言った。      彼女の言霊を乗せるように、風は彼女から僕の方へ吹いていた。見渡す限りの青の世界。風だけが行き交う蒼空のただ中。  閉じていた瞳を開く。足場などなかったが、僕と彼女はそこに居た。  僕は首を横に振った。     「なら、私と一緒に来ませんか? 私たちは"同族"──あぁ、言い方が悪いですね。……"仲間"を見捨てたりしませんよ?」    僕は即座に否定する。 「なぜ?」      僕は一呼吸置いて、彼女の姿を──僕の白い翼と対の黒い翼を持つ、風のような少女を真っ直ぐ見つめた。     「僕はあそこにいたい」      少女は少し呆れたように嘆息を漏らし、僕と視線を重ねた。我が儘を言う弟を宥める姉のような穏やかな表情だ。  しかし、過ちは咎められなければならない。  少女は、それを代弁するかのように口を真一文字に噤み、表情を凜と引き締めた。     「なら、力ずくで連れて行きます。私たち烏天狗は、仲間を見捨てることはしません」    烏天狗、射命丸文と名乗った少女は、手に持った大きな団扇の矛先を僕に向け、その戦意を示した。
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