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「それは、手の届く世界ですか?」
空の中、彼女が言った。
彼女の言霊を乗せるように、風は彼女から僕の方へ吹いていた。見渡す限りの青の世界。風だけが行き交う蒼空のただ中。
閉じていた瞳を開く。足場などなかったが、僕と彼女はそこに居た。
僕は首を横に振った。
「なら、私と一緒に来ませんか? 私たちは"同族"──あぁ、言い方が悪いですね。……"仲間"を見捨てたりしませんよ?」
僕は即座に否定する。
「なぜ?」
僕は一呼吸置いて、彼女の姿を──僕の白い翼と対の黒い翼を持つ、風のような少女を真っ直ぐ見つめた。
「僕はあそこにいたい」
少女は少し呆れたように嘆息を漏らし、僕と視線を重ねた。我が儘を言う弟を宥める姉のような穏やかな表情だ。
しかし、過ちは咎められなければならない。
少女は、それを代弁するかのように口を真一文字に噤み、表情を凜と引き締めた。
「なら、力ずくで連れて行きます。私たち烏天狗は、仲間を見捨てることはしません」
烏天狗、射命丸文と名乗った少女は、手に持った大きな団扇の矛先を僕に向け、その戦意を示した。
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