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もし、戦うというのなら、応じる気もある。彼女──射命丸さんは彼女の種族としての尊厳をかけて僕を連れて行こうとしているのだし、僕はそれに抗わなければならない。反する願いを持つのだから、何らかの形で対峙することは仕方のないこと。
でも、幻想郷に住まう彼女らのやり口というのは、スペルカードという狂気の弾丸を交わしあうという非現実の流儀。
僕自身、幾度かそれを体験してきた。痛いし怖いことだ。でも僕が懼れているのはそんなことじゃない。
「……ぼーっとしてていいんですか。行きますよ?」
ぞくりと背筋を駆け上がる悪寒。
しかし同時に、言い知れぬ高揚感、どこか心地よいとすら感じる緊張感のようなものが胸に込み上げていた。
……これだ。それまでの僕だったら絶対に感じることのない感情が芽生えていた。まるで今の僕が昨日の僕でなくなっていく感覚。ひょっとすると、戦っている間に、僕は本当に僕でなくなってしまうのではないかという恐怖と不安。それはこの翼からゆっくりと呪いのように全身に染み渡る毒のように思えた。
でもこれが僕の存在を問う戦いなのだとしたら、逃げることこそが愚の骨頂だ。逃げ道など最初からどこにも用意されていない。
でも──。
「はは……」
渇いた笑いが込み上げた。こんな時、いつもいつもいつも、宗一郎や霊夢さんや魔理沙さんに助けられていた。今もそれを望んでいる。僕は何も変わっていないじゃないか。誰かを守りたいとか、大切な人を傷つけたくないとか、言っていたくせに。
耐えられず、射命丸さんから目を逸らす。……ああ。
漆黒の影が舞い降りた。
「──叶に手を出す奴は私が許さないぜ」
……いつもそうだ。
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