五譚 軋轢

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       目の前に降り立った黒の塊。陽光を跳ね返して翻る金髪。箒に跨ったその姿は僕を守るかのように、僕と射命丸さんの間に割り入った。  その背中を直視しようとは思えなかった。  できれば耳も塞いでしまいたかったが、それをするには腕が動いてくれず、その鈴のような声を遮ることはできなかった。 「無事か、叶?」      僕は答えない。 「……ふぅむ。まぁ、無事としよう。それじゃ文、おまえには霊夢からの言付けだ。えぇと、『あんたがやろうとしていることは決闘じゃない』だそうだ」   「ふむ。確かに叶さんに『意志』がない以上、これは真っ当な決闘とは言い難いかもしれないですが。  それよりも──いいえ、だからこそ、というべきでしょうか?  魔理沙さん、あなた、自分が何をしているのか分かっているのですか?」      文さんの言葉には明らかに咎めるような敵意が込められていた。それでも魔理沙さんは悪びれた様子もなくあっけらかんと答える。     「ああ。叶には力がないからな。だからこうしてわたしが来た」      魔理沙さんの何気ない言葉に、ちくりと胸が痛む。      しかし僕の傷心なんかにおかまいなく、事態が急転直下の展開を迎えていることに気付いた。  それまでの飄々とした受け答えは形を潜め、肌に感じる風は重く強く濃密。息が詰まりそうだと気付いた頃には、二人は既に臨戦態勢で相対していた。  細めた目で魔理沙さんを冷ややかに見る射命丸さん。風はまるで彼女の感情を映す鏡のように敵意を孕んで渦巻き始める。  小さく切った言葉を再度紡ぎ出す時、風は鋭く僕らの横を流れていった。     「──だから、あなたが何をしているのか自覚がないのであれば、私は実力であなたを薙ぎ倒します」      轟、と嵐が鳴いた。
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