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分かっている、当たり前のことだ。そう言う代わりに口を噤む。
翼だけ消して今まで通りに戻りました、万々歳──。そんなご都合主義が罷り通るわけがない。霊夢や魔理沙が、叶がそう望んだとしても、許されない。
少なくとも、自分と魔理沙は彼らの前から姿を消さなければならない。それまでの霊夢たちとの記憶と共に。
「らしくないわよ、霊夢。誰とでも常に一定の距離を保って、決して親密になろうとしない貴女が──」
「うるさい」
静かに一喝。紫が溜息を吐くと同時に、霊夢は追撃する。
「あんたにどうこう言われる謂われはないから」
「分かったわよ。今回ばかりは、私の過失が大きすぎる。そもそも大元は私のせいなんだし」
紫は幻想郷の賢者と呼ばれる存在であり、殊に"境界"の専門家。だから、幻想郷と現代で起きている不可思議なこの事件についても何か知っているはず、というのが霊夢の見解。
そう、──妖怪の現代入りだ。
吸血鬼、亡霊、竹林の姫。何の脈絡も共通点も無く、幻想郷の住民が不可思議に現代入りしている。それは異変と見て、余りある出来事だった。現に、そのせいで叶の体に異変が起きたと見て違いない。ひいては、やがて幻想郷や現代全体の問題と成り得る禍根の種と言えた。
その真意を、境界の賢者に問う。
「どういうことかしら?」
「あなたの想像通り。幻想郷と現代を隔てる結界が極端に弱まっているのが、現代入りの原因ね」
紫はその兆候があると見るや否や、霊夢と魔理沙を斥候として現代に送り込んだ。現代入りした妖怪共が好き勝手に暴れては困るからだ。
博麗大結界に霊夢の存在は幻想郷に必須であったが、紫のごまかしによって今は大事に至っていない。しかし、それもいつまで保つことか、というのが紫の見解だ。
「式は私の補佐に回さないといけないし、使える手駒がなかったのよ。あなたを使うのはリスキーだったけど」
「そんなことはどうでもいいわ」
「あんまり良くないけどね」
それほど、博麗霊夢を幻想郷から切り離してまで、幻想郷が現代に影響を与えてはいけないという鉄の掟が存在した。
途方もなく、不安定な天秤。気紛れに触れ、予測など付こうはずもなく。
放り込まれる小石という名のイレギュラーを予測出来ようとも、策を講じることまでは出来なかった。
だからこうして、紫が出てきている。
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