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「じゃあ、いくわよ」
前置きが妙に長く感じた。常に直球勝負の霊夢さんらしくない物言いだった。さっきまではあんなに、霊夢さんらしい笑顔を見せてくれていたのに。
その差にちょっとだけ戸惑いながら、僕は頷いた。
「その翼を、消すことができる」
この翼を、消すこと。頭の中で霊夢さんの言葉を反芻する。即座にそれを望もうとして、押し留まった。なんとか言葉の意味と隠された真意を汲み取るため、先の言葉を吟味する。
翼を消したらそれは、表面的には万々歳だろう。これは所謂、百害あって一利なしという代物だ。──いや、果たしてそうか?
そもそも、なぜ翼は生えたのだろう。まずそこから考えてみる。
輝夜さんとの戦いの最中、直面した不可能という道理を、僕の無理でこじ開けようとした結果。それって何だろう。手や足とはまた違った、意味のあるもの。意味?
この翼の意味。存在の意義。何かしらの理由があるから生えたのだろう。望まれて生えたのだろう。
おそらく、と、あの時の気持ちを思い出す。
輝夜さんに勝ちたいという気持ち。
強くなりたいという意識。
大切なものを守りたいという意志。
それが形になって顕現した、それがこの翼。
『みんなと笑って過ごすため』の力。
これは、僕の望みの形だ。
あの時の気持ちを思い出せば出すほど、『おそらく』が『間違いなく』に近づく。確信に変わるのに、そう時間はかからなかった。
何かを得るには、何か別のものを犠牲にしなければならない。
どこかで聞き流した言葉が、頭の中でぐるぐると回っていた。
みんなと笑って過ごす日々の代わりに、常識の輪廻を犠牲にする。
常識の輪廻から外れないために、みんなと笑って過ごす日々を犠牲にする。
どこかで聞き流した等価交換の原理。漠然としか捉えていなかったものが、今はっきりと姿を現して僕の前に立ちはだかっていた。
僕に求められていたのは、選択だった。
「そんなの、最初から決まっていたじゃないか」
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