一譚 希望の果て

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   二人の成り行きを見守っている時だった。 「もうちょっと下がった方がいいわよ。……もっとも、この場所に安全な場所があるとは限らないけどね」  いつの間にか僕の横に立っていた巫女少女が意味不明なことを言う。  ……いや、理解など不要だった。眼前に叩き付けられた非現実を理解、肯定することなどあってはいけない。 「え……?」  星空が降ってきた。  思いがけずそんなファンタジーが頭をよぎる。しかしそれは目の前で起こっている現実だった。  あたりを見渡しても射影機はない。あれほどの数の"星"を隠す場所もない。僕の記憶、もしくは人類の常識という定義に、この光景は。 「……ありえない」  学校の屋上は瞬く間に真昼の星空へと変貌を遂げた。その状況を僕の貧相なボキャブラリーで言うならこうだ。  数え切れないほどの星が、魔法使い少女を中心に渦巻いて、宗一郎も巻き込んでいた。  夢だと割りきることの方がいかに簡単だっただろうか。とりあえず理解できたことは、これはとんでもない非現実だということだけ。 「ずいぶんとファンシーなものを持ち出すじゃないか」 「そ、宗一郎!」  その渦中に取り残された宗一郎の声は場違いなほどに暢気だった。  僕ならまず間違いなく卒倒。いくら卓越した剣道家の宗一郎だって僕と同じ一般人の範疇に留まっている。相変わらず、見ていて清々しいほどに何を考えているのか分からない。  そんな宗一郎が、片手に持っていた鉄パイプを両手に構え、目の前にゆっくりと持って行った。剣道で云う、正眼の構えだ。  でも、宗一郎には悪いけどそんなものでどうにかなりそうな出来事には思えなかった。  僕が力になれるかは二の次として、思わず駆け出そうとする。しかし。 「……っ」  僕の足を止めたのは他ならぬ僕自身だった。……震えが止まらない。  一瞬頭の隅を過ぎった躊躇が全身に染み渡っていくのも一瞬。そうなってしまったが最後、足は地面にへばりついて離れない。  そんなうちに、この非現実の元凶であろう魔法少女が陽気な声で言うのだった。 「難易度は“べりーいーじー”だ。必死こいて避けてくれ」  瞬間、その細い指で挟んでいた黒いカードが眩いばかりに光を放ち──! ──魔符 ミルキーウェイ     いよいよ、ファンタジーが加速する。  
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