一譚 希望の果て

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     本当は、あの星屑の弾丸についてとか完全に質量とか重力とか無視した自律行動とかについて聞きたかったのだけど、それを知ることで僕の身にも何か起きてしまうのも芳 しいことではない。つまりビビりな僕はささやかな好奇心を胸の奥にしまっておくことにした。  ちなみにこれは魔法少女が後で呟いていたことだが、宗一郎はただの人間にしては筋がいいらしい。  ただの人間ってのがどういうものなのかは知らないけど、剣道の達人である宗一郎を以てして『ただの人間』と言わしめる魔法少女及び巫女少女は一体どれほどのバケモノなんだろう。 「私の知り合いにも剣使いがいるんだがな、おまえなら良い勝負になるかもしれないぜ」 「ほう、興味深いな」 「今度紹介してやるよ。おまえ、名前はなんて言うんだ?」 「天谷宗一郎」 「宗一郎か。ふむ、覚えた。私は霧雨 魔理沙(キリサメ マリサ)。よろしくな」  完全に二人の会話に華を咲かせ始めた両人の異様なテンションについていけず、取り残された僕は寝そべった田中さん、もとい魔理沙さん越しに巫女少女と向き合う。  黙ってお茶を飲んでいた巫女少女は僕の視線に気付き、目だけ動かして僕を見た。 「……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」 「あはは、やめないさいよ堅苦しい」  あんまり清々しく笑うもんで、どうにも恥ずかしくなって視線を逸らす。本当に、ほんとーに僕らを襲った時と同じ人なのかと疑問を持たずにはいられない。  しかしこうしていてもにっちもさっちもいかない。  正面から向き合ってもその澄空のような笑顔を直視できる自信がなかったが、半ば自棄になって魔理沙さんを跨いで僕はテーブルに座る巫女少女と向き合った。 「跨いだな、今私を跨いだな!? 跨ぐと身長3センチ縮むんだぞ、責任取れぇーっ!」 「後でね」  悲痛な叫び声を華麗に受け流して、僕は巫女少女と対面した。  目だけ向き合っていたレイムさんが、今度ははっきりと体ごと僕の方を向いた。視線をちょっと下げて、彼女の視線とぶつからないようにする。  たぶんその瞳は、今まで僕が出会ってきたどんな人よりも綺麗だったから。  ……ごほん、それは置いておこう。 「僕は、渡良瀬叶。名前を聞いてもいいかな」  
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