二譚 遊戯

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  □ side out  後ろから断末魔の絶叫が聞こえた気がしたが、気のせいだということにして霊夢は飛翔を続けた。  何しろ、それどころではないから厄介である。  前方を飛ぶ霊夢は顔だけ振り返った。白黒の魔法使い、霧雨魔理沙が目を丸くする。 「どうかしたか?」 「なんで着いてくんのよ」 「こっちから怪しい臭いがしてくるんだ。私の進路方向に霊夢がいるだけだぜ」  どんな臭いよ、とツッコむ霊夢。  しかし実のところ、霊夢も魔理沙と同じような理由で目的地を定めて飛んでいた。  気配というか、妖力というか。そういう曖昧な概念的な意味では魔理沙の言う『臭い』もあながち間違いではないかもしれない。霊夢も魔理沙と大した差はない。  そして、その気配は確かに強まっていた。それを示すように、紅い霧はその場所に近づくにつれ徐々にその濃さを増している。 「魔理沙、いつまで着いてくるつもり?」 「……コレってさ、前を飛んでいる人のほうが有利だよな」  軽口を叩いている間に行き先の目の前まで来てしまった。  鮮やかな紅い気と、押し潰さんとその方向から襲い来る重圧は、そこへ向かうということすらも苦とさせる。凛然とその場に佇んでいるであろう人物の力の程を知らしめるように。まるで、「近づけるものなら近づいてみろ」と嘲笑うかのように。  しかし霊夢は涼しい顔で、また振り向くのだった。 「念のために聞いておくわね。この紅い霧を起こした犯人は──」 「おいおい、私も馬鹿じゃないぜ。そのくらいは分かる」 「はぁ、そりゃそうよね」 「アイツだな」 「アイツよね」  二人は頷き合う。  おそらく全ての世界の全ての歴史を漁ってみたとしても、こんな常識の範疇を超えた面倒事を起こす人物など一人しかいないだろう。寺子屋兼業の半獣に誓ってもいい。  霊夢は叫ぶ。一際濃い赤い霧の向こう側にいる、吸血鬼の名を。 「レミリアぁー!」  
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