二譚 遊戯

15/37

451人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
  「ふーん……」  理解したのだろうか、そう言い、少女は片足を僅かに後ろに下げた。  それはシュートの姿勢。僕も一応大人の体裁を守るため、両手を僅かに広げてシュートに構えた。 「こう、かなっ!」  不意に一陣の辻風が舞い踊ったかと思うと、鋭い風切り音が僕の頬のすぐそこを通り過ぎていった。 「…………」  ええ、その正体は分かっていました。  まるで竜巻が真っ直ぐ僕に向かってきたかのようだった。ジャイロ回転だったね。  ふと、後ろを振り返る。僕が守っていたはずの大木には、巨大なクレーターが出来ていた。  その中心、クレーターの原因となっていたモノがめり込んでいた。  摩擦熱から焦げたのだろうか。少し黒くなり、煙を上げているサッカーボールがそこにあった。 「もう笑うしかないね!」 「これでいいの?」 「よくない」  相も変わらず無邪気な笑みを浮かべる少女。  僕の方はというと至って真面目である。なにせ直撃したらとんでもなく痛いだろうから。  というかどこから来るんですかその脚力。将来有望なサッカー選手になってくれそうです。  僕はめりこんだサッカーボールをなんとか掘り起こし、少女に向かって転がした。 「ええと……さあ来い! やっぱ控えめに!」  結果としてサッカーではなく一方的なドッチボールとなったのは僕にとって不運でしかなかった。  
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

451人が本棚に入れています
本棚に追加