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視界を真っ赤に染めたのは、紅い霧のせいだけじゃない。
烈火の剣を形作る獄炎の炎が眼前に広がっているからだ。
それはまだ頭上高く掲げられたままなのに、それでも肌が痛くなるほどに熱い。ライターの火がちっぽけに見えるほどに、それは常識的な火という概念を凌駕した炎だった。
もう、くだらないジョークすらも浮かばない死の瀬戸際。
動かない体、超高温の炎の剣、無慈悲ともいえる無垢な笑顔を浮かべる死の執行人。
「っ……」
口内に溜まった唾を飲み込む音が、紅蓮に包まれた新緑の森に響き渡る。
心音がこれでもかというくらいに自己主張を始め、心臓が胸から飛び出てきそうな錯覚すら覚える。
じんわりと滲み出る汗が前髪を顔に貼り付ける。固まりつつあった泥が汗で融解する。ひどく、気持ち悪かった。
そして何より、壮絶な威圧感と絶望に押し潰されそうだった。
──いや、僕はこれから押し潰される。
無垢な少女の罪悪感の一切無い一振りによって。地獄の業火に焼き尽くされる自分の姿を脳内で思い描いた時、動悸がまた早くなった。
「ばいばーい。楽しかったよ」
そして、助けを乞うことすら許されずに。
その右手は、僕を刺し穿たんと振り下ろされた──。
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