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思わず目を瞑った時、一陣の風に乗って少女の声が響いた。
「そこまでよ、フラン」
幼さの中に途方もない存在感が漏れている凛然とした声。初めて聞く声だけどそれはいつまでも耳の中に反響していた。
僕とフランドール以外に誰もいなかったはず。
なのに、その声の方を向くと──二人。
蝙蝠を思わせる翼を携えた少女と、落ち着いた目でこちらを見つめる銀髪のメイドさん。
はたはた異色であるのは分かってるけど、生憎頭が回らない。
今、僕は生きているのか?
「フラン、止めなさい」
「だってお姉様、これは弾幕ごっこだよ。お姉様だろうと、邪魔するのは許さないよ」
朦朧とする意識の中で聴覚が拾った言葉を、言葉通りに理解することしかできずに。視覚が拾った風景を、その通りに理解することしかできずに。
生きているのか死んでいるのかも分からないまま、僕はそのやり取りの傍観者となっていた。
「ここは幻想郷ではない。貴女が珍しくも振りかざしたルールという代物は何時如何なる時においてもその場に適応するものしか通用しない。適切な平等性を持つからこそ、規則はあるのよ。刮目してみなさい。貴女とそこの人間の間に、今一体どのような平等性がある」
言葉を挟むことを一切許さない、口にはしないものの、幼く荘厳なその声色には明らかにそのニュアンスが含まれていた。
諭される格好になったフランドールが不機嫌そうな顔を浮かべ、少女の傍らに微動だにせず佇む銀髪メイドさんに言う。
「咲夜。お姉様が五月蝿い」
「残念ですが妹様、私もお嬢様と同じ意見です。ですので──」
銀髪メイドさんの纏っていた硬質な雰囲気が、少し変わった気がした。
まるで氷のように冷たかった無表情が、抜き放たれたナイフの如き凶暴さを俄に滲ませ、
「──私がお遊戯の相手をしましょう。大丈夫、それなりに楽しめると思いますよ」
幼子に向けるにはあまりに冷たい声色で、そう言い放った。
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