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少々微笑ましいイレギュラーを挟んだが。事態はまったく変動の兆しを見せていなかった。
尚も紅い世界に君臨するフランドールと、相対するちょっと泥臭くなった少女。
フランドールが右手に未だ轟々と燃えさかる火炎を従えながら、
「ぐだぐだはキライだから、一発でぶっ殺してもいい?」
「ええ。是非、そうしてみなさい」
短い言の葉を交わした後、フランドールはにっこりと笑った。
同調するように、右手の業火が更に勢いを増す。くべられた感情という燃料が轟音を上げて火炎へと変換される。
少女もまたそれに応じ、一枚のカードを抜きはなった。
化け物じみた力を持った少女に相対するのは、やはり同等の強大な力を持った少女。
カードを抜きはなった、その動作だけでこの身に降りかかる圧力が倍増した。
空気を震わせ、大気が悲鳴を上げ、大地が揺れる。真上から襲い来る重力に押し潰されそうだった。
そんな僕に、銀髪の女の人が手を差し伸べる。ひんやりした掌が頬に当てられた瞬間、僕を押し潰そうとしていた様々なものが収縮していくのを感じた。
「あとは任せて、おやすみ」
ひんやりとした掌の感覚が、火照っていた思考を冷ましていく。
興奮、緊張、死の恐怖、逃げろ、逃げろ、逃げろ。そんなどろどろぐちゃぐちゃの感情が沈んでいく。
──しかし、僕はその心地よい安楽に抗った。
「……ごめん」
「?」
動かない肢体に渾身を込めると、かろうじて指先が反応してくれた。
まだ足りない。あと数歩、駆けるだけの力を。
こうまでして、僕はあの二人を止めたいのだ。拮抗する力の大瀑布の中に飛び込みたいのだ。なぜなら、
「僕とフランドールは、友達だから……!」
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