三譚 宗一郎という男

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  □ side out  人が己の力だけで宙に浮くことができるのは、せいぜい数十センチがいいところ。それでも、トップアスリートだけに許された超人的な彼らの領空である。  遥か遥か、高い空。雲より更に上の上。人智の結晶である鉄屑の高度臨界点より更に上。  そんなところに人がいたら、誰しも驚くだろう。  そんなところに、まだ幼さを残した女の暢気な声が響いた。 「なぁ霊夢、なんで私たちはこんなところにいるんだ?」  さも当たり前と言った表情で大空を滑空する白黒の魔法少女が問う。  その問いに、やはり平淡な顔つきの霊夢が振り返り、答えた。 「幻想郷の連中がこっちに来た時に昨日のレミリアみたいに分かりやすい行動を取ってくれればいいけど、そんなこと何回も起こるとは限らないじゃない」 「そうだなぁ」 「だから、一応こうやってパトロールもしなきゃなんないの」  霊夢の言葉には信憑性があったから、魔理沙は素直に納得した。信憑性に根拠を求めるとしたら、霊夢の顔が真面目であることか。 「にしても、そんなにほいほいと出てくるもんかね」 「出てこないとも限らないじゃない」  魔理沙は「あーはいはい」と空返事だけ返し、体裁だけ取り繕うように適当に辺りを見渡した。  何しろ、眼下に広がる世界は物珍しかったがひたすら同じ建物が建立しているだけで興味も失せたし、上下前後左右どこを見渡しても生物一匹いないのだ。  幻想郷ならそこかしこに妖怪やら妖精やらいるものなのだが、外の世界の空は閑散としすぎていた。  だから、ということもあっただろう。  視界の端で何かが揺らめくのを、魔理沙は見逃さなかった。 「……ん?」  そこを注視する。目を凝らすと、そこには陽光を反射しつつ優雅に舞う薄紫色の蝶がいた。 「おぉ、霊夢。チョウチョウがいたぞ。てふてふだ」  
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