三譚 宗一郎という男

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  「蝶?」 「蝶だ」  幻想郷では別段珍しいものではない。妖蝶などは普通に上空にいる。彼女らが今いる世界ではそれはおかしいのだがそれは二人の知る由ではなく、疑問に思う様子もない。  むしろ、そんなくだらないものを一々報告するな。そんな表情を浮かべながら、霊夢は魔理沙が差した人差し指の先を見つめる。 「何をたかが蝶一匹……」  眉間に皺が寄るくらい目を懲らす霊夢だが、どうやら見えないらしくその端正な眉がどんどん歪んでいく。  魔理沙の人差し指が、「ほらほら」「そっちそっち」と忙しなく動き回る。  やがて緩やかにその指先が下降していくと── 「──桜が咲いてるわね」 「……桜が咲いてるな」  桜。英語で言うとCherry Blossom。  桃色の花弁を咲かせ、とある国の象徴としても非常に有名なその木だが、霊夢と魔理沙にとってはある出来事がフラッシュバックされるキーセンテンスの一つだった。 「満開だわ」 「満開だぜ」  満開だと、尚更。  それなら、さっきの蝶にも合点がいってしまうのだ。  二人は顔を見合わせると揃って溜息を吐き、その桜へ向かって降下していった。 □  
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