三譚 宗一郎という男

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   結論的に、扉はやはり修復不可能だった。  やはり老朽化していることも否めなかったが、少女の腕力に依るところも大きい。  宗一郎の胸ほどもない身長のどこにそんな力があるのかとはたはた疑問に思う彼だったが、少女の特殊性は更に加速する。  木造の道場の中心で正座して俯く少女。  白と緑を基調としたちんぷんかんぷんな服装の白髪パッツン少女であるあたりも、まだ幾ばくか常識の範囲内だった。……いや、少女の背後に在る非常識と相対的に言えば、の話ではあるが。 「それ、食えるのか?」と宗一郎。  罪悪感に苛まれている少女を指さして。正確にはその指は、少女の背後に浮遊する半透明の物体へ向いていた。  丁度、朝から昼まで無休で素振りしていた宗一郎は腹が減っていた。それが食べ物に見えたのは彼なりの当然。浮遊していることは眼中にないようだ。  少女は最初、顔に特大のクエスチョンマークを浮かべていたのだが、その指先が自分の後ろに向けられていることに気付くとはっとしたように宗一郎を睨んだ。 「大福じゃありません!」 「いや、餅だと思ったんだが」 「餅でもないし饅頭でもないです!」 「……じゃあ、なんなんだよ」  宗一郎の疑問に、少女は少しだけ胸を張って答えた。 「私の半身とでも言いましょうか」 「それで、道場破りだって?」 「自分から聞いておいてその反応はないです!」 「それで、道場破りなんだろう?」 「……そうですよぅ」  少女は先ほどまでの罪悪感も忘れた風に、口を尖らせた。  
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