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「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
大気を打ち砕く男の咆哮が、木造の建物を揺らした。
それは生物の本能──危機察知能力を否応なく掻き鳴らす、王者たる獣の咆吼だった。
剣道とは、いかに相手の心を折るかのスポーツであると、宗一郎は思っていた。
磨かれた技術も洗練された精神力も、心さえ負ければ勝利とは無縁の長物となり下がる。
宗一郎の研ぎ澄まされた集中力というものは、決して折れない強靭な心という土台があるからこそ成り立っていた。
試合中の雄叫びというものは、己を奮い立たせる発奮剤であると共に相手の心をへし折る一撃でもある。
そういう意味で、宗一郎は最初の一撃に絶対的な自信を持っていた。
しかし。
「やああああああああああああああっ!」
縮み上がっているはずの妖夢の小さな体から、溢れんばかりに轟く戦気の咆哮。瞬間、宗一郎は目の前の少女が自分より遥かに大きな存在に見えた。その小さな手に持つリーチの短いはずの竹刀が、まるで常に自分の面を捕らえているかのようにさえ思えた。
その錯覚は、宗一郎が気のぶつけ合いで負けた証拠に他ならない。そして、初めての経験だった。
まさかの出来事に宗一郎は目を丸くさせた。しかし、それも一瞬。次にはうっすらと笑みさえ浮かんでいた。
一太刀目より先に、第一戦目の勝敗は決した。
これから始まるであろう熾烈を思い、宗一郎はより強く柄を握りしめるのだった。
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