三譚 宗一郎という男

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   宗一郎の竹刀が、幾多もの剣閃となって妖夢に襲いかかる。面、胴、小手、一つでも防ぎ誤ると即ち敗北。息をも付かせぬ嵐のような猛攻。  妖夢の竹刀を防御の上から弾き飛ばすほどの一撃に、妖夢の顔が再び苦悶に染められる。今度は虚栄ではない、そんなことをさせる暇すら与えていなかった。  宗一郎も、ただ闇雲に打っているわけではない。相手の隙を引き出しつつも、自分は隙のない攻撃をしかけなければならないのだから。  先の打ち合いで感じ取った妖夢のしたたかで抜け目のない打ち筋を考えると、ここまでの嵐のような猛攻でもその間を縫って返し技を決められかねない。  守り手だけでなく、勢いに乗った打ち手でも細心の注意を払う。  辺りの空気を焼き尽くすかのような烈火の猛攻の中にも、緊迫した空気は確実に漂っていた。  宗一郎の竹刀が天から突き刺さる。妖夢の竹刀が面の前でそれを防ぐ。  宗一郎の竹刀が雷を纏って薙ぎ払われる。妖夢の竹刀が胴の横でそれを防ぐ。  宗一郎の竹刀が不可視の速度で閃く。妖夢の竹刀が右の小手を守った。  右面かと思うと左面を狙い、胴へと標的を変え、竹刀を叩き落とさんと小手を叩く。  有無をも言わさぬ重い一撃を、常に相手の思惑の裏へ回しこむ。神速の一撃が大気を裂きながら妖夢の全身を狙い撃つ。  その竹刀は、まるで剣道における攻撃の到達点に君臨しているかのようだった。  しかし、それを防ぐ妖夢もまた並外れた実力の持ち主だった。  バシン、と竹刀がぶつかり合う音が一際大きく響いた。  再び、場は鍔迫り合い。  拮抗した力の逃げ場となった木造の床がギリギリと悲鳴を上げる。  先ほどと同じ展開を見せながらも隙を見せない互いに、二人は図らずも同時に同じことを思い始めていた。 ──この手は、今のままだと決定打に繋がらない。  同時に思った、同時に行動に移した、同時に驚く。 「……ん」 「……ふむ」  弾かれるように、二人は同時に後退した。  
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