三譚 宗一郎という男

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  □  時は少し遡る。  桜を発見し、よからぬ予感と共にそこへ降下していく霊夢と魔理沙の姿があった。 「桜といえばアイツよねぇ」 「うんうん」  アイツ、の呼称で疎通するほどに桜とその人物とは縁があった。  幻想郷における、春雪異変。春が奪われるという前人未聞かつそこまで大したことではなかった異変の首謀者。  やがて桜が群生する山の一角が視界一杯に広がる。淡い桃色の花弁は、儚さと清らかさを物静かに語っていた。  そんな情調を意にも介さず、霊夢の暢気な大声が桜の山に轟いた。 「ゆーゆーこー! いるなら出てきなさーい!」 「霊夢、音量がデカい」 「だって桜で見えないんだから仕方ないじゃない」  桜に非はない。しかし霊夢とはそんな性格の持ち主だった。  やがて桜の海の中から、その人物が現れた。  桜と同じ淡い桃色の髪、清らかな水流を思わせる水色を基調とした和服を着こなし、手に持つ艶美な扇で口元を隠す様は麗らか。  優雅に登場したその人物──西行寺幽々子は、扇の向こうではらりと微笑み、言う。 「何か用かしら」   「成敗しにきた」と開口一番物騒なことを抜かす霊夢に、隣の魔理沙がギョッとする。 「私、まだ何もしてないのに」  口では不満を漏らしながらも、その顔はうっすら笑っていた。  
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