三譚 宗一郎という男

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  「その台詞は、これから何かしでかすみたいに聞こえるぜ」  魔理沙は器用に箒の上で仁王立ちし、言う。  暇だから何か異変を起こしたいのが幻想郷民の総意と言えば言いすぎかもしれないが、とりわけ幽々子やレミリアたちのような幻想郷のパワーバランスの一角を担うような面々にとってはそれが総意と言ってもよかった。  その力を使えば遍く万物を平伏させることができるのにそのことに意義を感じない彼女らの力のはけ口。それが、その力を「ほんのちょっと」だけ使った、幻想郷をひっくり返すような大変迷惑な異変だったりする。 「うーん、そうねぇ」  のんびりとした口調で返す華奢なこの女性ですら、 「もしかしたら、能力で人を殺さなきゃならなくなるかも」  有無を言わさずまるで赤子の手を捻るように『人を殺す』ことができるのだから。 「どうする、霊夢?」と魔理沙。幽々子の回答は額面通り受け取ればさも恐ろしいことだが、魔理沙にそう思わせるには至らなかったようだ。 「だから、問答でボコすって言ってるでしょ」 「あらら、こわいこわい」  幽々子は口元を扇で隠し目を細め、くすくす笑った。  余裕綽々と態度で言っているようなものだ。霊夢は挑発的に目を細め、手に持つ紙垂を肩に担ぎながら言う。 「あんた、一回私たちに負けてんのよ?」 「ふぅん、一度の偶然に傲っているのね」 「……むっかぁ」  挑発したはずがむしろまんまと挑発に乗っている霊夢。自信満々だった顔は恨み辛みでくしゃりと歪んでいた。  分かり易いくらいの単純思考の持ち主に心理戦は無理無謀だ。更に言えば、相手が冷静であればあるだけ不利である。   「まぁまぁ霊夢落ち着け……とは言わないが」  感情で動く人間の怒りを宥めることのなんと虚しいことか。  魔理沙は溜息を吐くと、器用に箒を滑らせて霊夢と幽々子の間に割って入っていった。  
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